『人の心は映らない』

 だけど、どうやって?

 スマホを鳴らすしか手段は無いが、それで彼女がシャワーから出てきて、強盗と鉢合わせたら最悪だ。その場合、どうなる? 強盗は彼女をその包丁で刺し殺すだろうか? そんな地獄絵図は見たくない。

 いや……こんな可愛い女子大生が、バスタオル一枚で出てきて、そんなことになるだろうか? 犯人は男だ。包丁で脅して犯すに違いない。陵辱に泣き叫ぶ彼女の姿を想像して、罪悪感と嫌悪、そして興奮を覚えた。

 「………この中継映像、ちゃんと録画してたよな」

 ついそんな確認をしてしまう。いや、何を考えてるんだ僕は。さすがに、そこまで僕は鬼畜じゃない。大体、犯人はさっさと彼女を刺し殺してしまう可能性も十二分にある。そんなのはごめんだ。せっかく仕込んだノートPCが無駄になる。この素晴らしいショーがもう見られなくなってしまうんだ。やっぱりここは、彼女を救うしかない。僕のためにも。

 『ガチャン』

 そんなことを考えてる内に、バスルームのドアが開く音が、洗面所のドア越しに聞こえた。犯人はそちらの方を向く。まずい。彼女が洗面所から出て来た瞬間、この強盗と鉢合わせる!

 やばいやばいやばいやばいやばい!!

 まだ何も手を考えてないのに!

 僕がパニックになっていると、強盗は素早い動きで、ベッドの下に潜り込んだ。このカメラの角度的に、犯人の姿は見えない。どうやら、いますぐ彼女をどうこうするつもりは無く、機を伺うらしい。

 これはチャンスだ。

 彼女は遅れて洗面所から出てきた。裸にバスタオル一枚で出てくることを期待していた僕だが、それは裏切られた。入った時と同じ、つまり短パンにタンクトップの姿で出て来たのだ。シャワーを浴びたんじゃなかったのか? いや、顔は火照っているし、髪は湿っている。すっぴんになったみたいだが、その整った顔から溢れ出る可愛さは変わらない。そうか、洗面所で着替えて来たのか。

 残念だけど、今はそれどころじゃない。犯人がベッドの下に隠れた、今が絶好のチャンスだ。僕はスマホを手に取り、彼女のスマホにコールする。ドライヤーで髪を乾かそうとしていた彼女はそれを中断し、僕のコールを受ける。

『もしもし、真美ですけど…どちら様ですか?』

 彼女の可愛らしい声が、スマホと、僕のPCのスピーカーから聞こえる。僕は急いでスピーカーをオフにした。畜生、こんなことにも気が回らないなんて。

 『もしもし?』
 「あ…ごめん。えっと…僕です、同じゼミの田辺だけど」
 『あ、田辺君か。あれ、LINE交換してたっけ?』
 「あ、いや…ゼミのLINEグループから探して、かけたんだけど…」
 『あぁ、なるほどねー』

 僕は彼女をすぐに友達登録したのに、向こうはしてくれていなかった事に、少し怒りを覚えた。ディスプレイの中の彼女は団扇を仰いで、火照った頬を冷ましている。

 『それで、なにか私に用事?』
 「あ、うん、そうなんだよ…」

 電話をかけてみたものの、会話の内容まで全然考えてなかった。必至で頭をフル回転させる。彼女に危機を知らせるべきだが、強盗がいるなんて正直には言えない。なぜ僕がそんなことを知っている? ということになる。僕の盗撮がバレてしまう。それは絶対にダメだ。であれば、それとなく彼女を、その強盗がいる部屋から外に連れ出すのがベストだ。

 「えっとさ…よかったら…い、今から飲まない?」
 『え、今から?』

 こんなセリフを言えた自分に驚く。女子を飲みに誘うなんて、今まで出来たことが無い。それをあっさりと言ってのけたのだから、緊急事態というのは凄い。

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